「景観建築スタジオ東館」

かつての甲子園ホテルを改修した甲子園会館、建築スタジオに加えて、2020年4月の建築学部、建築学研究科の開設に合わせて、新設された景観建築学科、景観建築学専攻の新学舎2棟が新築された。甲子園会館に隣接する景観建築スタジオ東館は、「歴史的建造物との調和に関する一つの提案」として、F.L.ライトの愛弟子、遠藤新の設計で1930年に竣工した甲子園会館が持つ、その時代の文化を象徴する型を継承しながら、その中で新たな建築教育空間の創造を目指した。ここで継承された甲子園会館の型とは、1階の岩のような塊の上に、大きな屋根がその軒下に水平な濃い影を落としながら浮き上がるF.L.ライトの建築空間である。その空間では、小スケールの具象的形態が数多く積み重ねられたが、景観建築スタジオ東館でも、装飾タイルや家具、屋根の露盤や軒先瓦にある打出の小槌などが甲子園会館から引用されている。周囲の既存高木を残しながら、居室をそうした緑に向かって配置し、外周に大きな壁のない2階には、景観建築学科1年専用のスタジオが設けられ、周囲の樹木や甲子園会館の景観を明るく取り込むことができる。一方、研究室やエントランス・ホールが配置された1階では、木陰の落ちる落ち着いた室内から、伝統的な滝石組みが設けられた南側の和風庭園が鑑賞でき、キャンパスそのものが、建築だけでなく、植物の知識や伝統的な造園技術を修得する「生きた教科書」となっている。設計・管理は、建築学部教員が運営する一級建築士事務所「武庫川女子大学建築・都市デザインスタジオ」が行い、一級建築士の実務経験として認定されている大学院の演習科目として、大学院修士課程の学生も、設計、現場管理や周辺庭園の全体計画に参加した。また甲子園会館からデザインを引用した外壁タイルは、本学講師の指導の下で、7000枚以上を学生・教員が協力して学内で焼成した。

「景観建築スタジオ西館」

甲子園会館から竹藪や樹林で隔てられたキャンパスの西側に、2007年に竣工した建築スタジオと向かい合い、中庭を囲い込むように、景観建築スタジオ西館が2021年春に完成した。柱間寸法や階高などを建築スタジオに合わせてデザインの調和を図り、柱や庇版などにプレキャストコンクリートを導入することにより、外部の緑に開かれた軽やかさや透明感も建築スタジオから踏襲している。コア部分に配置した耐震壁に地震力を負担させることで、各階のスタジオ、講評室は、その三方をガラスで囲われた開放的な大空間とすることが可能になり、視覚的にも内部空間と外部空間との有機的連携を生み出した。南側には、かつての河川敷に残された巨大な楠や黒松、その奥には建築スタジオが見え、東側には竹藪が身近に迫り、北はさまざまな雑木が茂る小高い丘に接し、森の中にいるかのような雰囲気を実感できる。エントランスの正面にある吹抜の階段は、裏面も曲面で構成されたプレキャストの段板を高張力PC鋼線で繋ぎ合わせ、３階の階段脇壁面には、甲子園会館から引用した150mm角の装飾タイルやボーダータイルを用いて、1本の大樹を描かれている。武庫川女子大学建築学部・大学院建築学研究科では、学士・修士の6年一貫のスタジオ型の建築家教育を実践し、UNESCO-UIAが定める建築教育憲章に対応したJABEE建築系学士・修士課程プログラムの認定を日本で最初に受けた。景観建築系では、一級建築士とともに登録ランドスケープ・アーキテクト（RLA）を目指して、建築・都市・造園・景観などの多様な学びに取り組み、そのための理想的な建築家教育の場が、甲子園ホテルの歴史的文脈を継承しながら、都市の豊かな緑の中で実現されている。

（田﨑祐生／武庫川女子大学）